第28章 厄介物
「・・・透・・・さ、ん」
ふと彼の名前が小さく漏れた。
一瞬、沖矢さんの動きが止まったような気もするけど、気の所為に思うほど本当に一瞬だった。
「沖矢昴、です」
そんなことは知っている。
私が傍にいてほしいのは貴方じゃない。
名前を呼んだ彼なんだ。
「昴、でも構いませんよ」
昴・・・すばる・・・
「昴・・・さん・・・?」
「はい」
朦朧とする意識の中、その名前を口にすると彼が返事をして。
何故かどこか心地好くて。
ふわふわとした感覚へ意識が吸い取られるように、私はそのまま眠りについてしまった。
ーーーーー
久しぶりに夢を見た。
それはとても良い夢とは言えなくて。
人気のない場所で、透さんと二人きり。
何か話をしていたのに、突然銃口を向けられて。
蔑むような表情で私を見つめる。
ゆっくり後退りをするが、足に一発貰われて。
倒れたところに腹部へもう一発。
夢の中だからか、痛みは感じないが苦しさはあって。
腹部を触ると、ぬるっとした感覚が手に残った。
覚悟してたのになあ、なんて思いながら。
「大好き・・・でした」
そう彼に伝えた。
透さんは悲しそうに笑うと、銃口を私の頭に向けて。
「さようなら」
そう言って迷いなく、引き金を引かれた。
ーーーーー
「・・・・・・・・・」
人生最悪の目覚め。
体は相変わらず重たいが、瞼だけは既に上がっていて。
どれくらいの間、眠っていたのだろう。
というより、何故眠ってしまったのか記憶が曖昧だ。
「起きましたか」
声のした方へ顔を動かすと、ベッドに腰掛けて本を読む沖矢さんの姿があった。
ずっと、傍についていてくれたんだろうか。
「水分を取った方が良いですね」
本に栞を挟んで立ち上がり、首に手を回して優しく体を起こしてくれた。
夢のせいか熱のせいか、まだ脳はボーッとしていて。
何処でもない、ただ一点を見つめながらさっきの悪夢を思い返した。
透さんに殺されるのは本望だと思っていたのに。
夢の中の私はそれを望んではいなかった。
それがつまり何を意味するのかまでは、今は考えられそうもないが。