第3章 ポアロ
「このおかず、すごく好きです。今度レシピを聞いても?」
「あ・・・っ、はい・・・!またメールで送ります・・・!」
勝手な勘違いで更に心臓への負担を大きくしてしまった。情緒不安定な自分に段々と情けなくなってくる。
「もちろん、如月さんのことも好きですからね」
一瞬なんと言ったのか理解できなかった。そもそも本当に聞えた言葉だったのか。
確かめるように安室さんへゆっくり視線を戻す。
こちらを見て笑う安室さん。どうやら空見ではないことは確かな様子。
「それは・・・どういう・・・・・・」
「そろそろ時間ですね」
言葉の真意を確かめようとしたところをかき消される。時間を確認するや否や、安室さんは食べ終えた容器を自分のカバンへ入れようとした。
「これ、洗って返しますね」
「大丈夫です!私が洗いますから・・・!」
「でもそれくらいは」
「本当に大丈夫です、お気持ちだけいただきます」
そうですか?と渋々私の保冷バッグへ空の容器を詰め直した。
「ごちそうさまです、お弁当は待ってて良いんですよね?」
ソファーから腰を上げながら問いかけられる。
安室さんの質問にいいえと答えられるものなんてなくて。
「・・・気長に待っててくださいね」
返事を聞いてまた笑顔を見せてくれる。
「では、また明日事務所で」
「はい、お疲れ様です」
安室さんが帰ったあと、もちろんご飯が喉を通るはずもなく。結局安室さんの言葉の真意を確かめられなかった。
いや、確かめない方がいいかも。そんな気もした。
「・・・お店に戻ろ」
1人でいると落ち着かない。広げていたおかず達をそそくさとしまって、ホールに戻った。