第27章 帰り道
「・・・そんなこと、どうして沖矢さんが知ってるんですか」
これは明らかな動揺。
それと同時に、今までに感じたことのない、沖矢さんへの恐怖が募り始めていた。
「ということは、本当にお付き合いされていないんですね」
やられた。
動揺からつい口にしてしまった本音が、自分の足を引っ張った。
本当に確信があったのかもしれないが、私の言葉でそれは真実だということを気付かせてしまった。
・・・大丈夫。そんなことを知られたからといって、私にはほぼ関係ない。例え透さんと付き合っていなくたって、私の心は透さんのものだ。
彼・・・透さんを優先することは揺るぎない真実で。
「・・・それでも私は透さんしか見えていませんし、他を見るつもりもありません」
その決意を目で訴えた。
沖矢さんが何故私にそこまで突っかかるのかは多少気になるが、私はこの人に興味はない。
あくまでも協力者。
その嫌悪の意味も眼差しには込められていた。
「その事実、ひっくり返して差し上げましょうか」
そんなことできるはずがない。
ここまでくれば最早、意地で。
「できるものなら」
売られた喧嘩を買うように、沖矢さんをキツく睨み付けた。
それを沖矢さんに鼻で笑われながら顎を持ち上げられて。
「その言葉、後悔しないでくださいね」
「・・・っ」
自分で受け取っておきながら、そんな煽りに少し怖気付いて。
・・・大丈夫。何をされたって、やっぱり透さんが良かったと思うんだから。
今の自分では、説得力の欠けらも無いけれど。
「体が冷えています。部屋は暖めておきましたから早く戻って寝てください」
「・・・え・・・?」
無駄に高められたこの怒りや恐縮などの気持ちはどこへやったら良いのか。不安になるくらい沖矢さんは呆気なく離れて。
「それとも、僕と一緒に温め合いますか?」
「・・・っ、ふざけないでください」
どこかに行きかけた怒りは、倍になって帰ってきた。彼の言葉に従う訳では無いが、彼の目の前から一刻も早く姿を消したくて、足早に部屋へ向かった。
乱暴に扉を開けて中に入るなり、いつもは掛けない鍵を急いでかけた。
沖矢さんなら合鍵くらいもっているだろうけど。
それでも、少しでも彼と過ごさない時間を考えるあまり、体が勝手にそうしてしまっていた。