第27章 帰り道
「楽しかったですか?」
その笑みが何を意味するのか分からなくて、最早気味が悪い。
険しくなる一方の顔はそのままに、無言で彼の横を通り抜けようとした時、当然の如く腕を掴まれた。
「・・・っ、離してください」
「持ち帰った情報は共有して頂けますか」
持ち帰ったも何も、彼からは赤井秀一について一緒に調査してほしいと言われただけ。
それについては彼らに・・・特に沖矢さんに相談するつもりは微塵も無くて。
危険に晒さないという前提は、勿論あってのことだが。
「別に何もありません。透さんと一緒に時間を過ごすだけではいけませんか」
「・・・ええ、そうですね」
その言葉が良いと捉えるのか駄目だと捉えるのか分からず、思わず沖矢さんに視線を向けた。
「彼と過ごすことについて、良いと思ったことは一度もありませんよ。その理由は後々変わってきましたが」
後者、と捉えるのがどうやら正解。でも、その理由が変わってきたというのは、今の沖矢さんなら想像ができた。
「・・・沖矢さんに話すことはこれ以上ありません。離してください」
掴まれた手を解こうと、腕を力強く自分に引き寄せるように引っ張るが、その手はビクともしなくて。
力を込めているようには見えない沖矢さんの涼しい顔が、苛立ちを募らせた。
「離してください・・・っ」
「もう一つ、興味本位で聞きたいことがあります」
言葉を続けられている最中にも、彼の手を剥がそうと手をかけるが、私一人の力ではどうしようもなくて。
掴まれている腕に意識が集中した一瞬をついて、体を壁に押し付けられた。
「・・・っ」
痛いような苦しいような。
思わず目を瞑り、それらの感情に耐えて。
「彼との情事はいかがでした?」
相変わらずデリカシーの欠けらも無い。
土足で人の心を踏み荒らす、その神経が理解できない。彼のこういうところが嫌いだ。
「沖矢さんには関係ありません。人のものに手を出す趣味は無かったのでは」
ミステリートレインでは彼の口からそう聞いた。だから油断していたのかもしれないけど。
「ええ。でも、彼とお付き合いはされていないようですので」
そんな情報、どこで手に入れたのか。
そもそも、この曖昧な関係は私達しか知らないはずなのに。