第27章 帰り道
「・・・今日は本当に・・・すみませんでした」
本来であれば、目を見て言わなければいけないことだけど。今は彼の顔を見て言うことができなくて。
「失礼します」
背中越しに彼が何かを言ったような気もしたけれど、これ以上透さんといることは精神的に辛い。
急いでドアを開け、勢いよく階段を降りた。
透さんが後を追ってくるとは考えにくいが、部屋を出てからは暫く走って。呼吸が苦しくなったところで、足を止めた。
「・・・は、・・・はぁ・・・」
冷たいコンクリートの塀にもたれ掛かり肩で息をしながら、この後の行動を考えた。
なるべく工藤邸には遅めに戻りたい。沖矢さんが寝ているところなんて、あの時の狸寝入りの時しか見たことはないけれど。
とにかくどこか寄り道をしたくて、近くの公園へと入っていった。
昼間は子ども達で賑わうここも、深夜のこの時間帯になれば人の気配すらない。
備え付けのベンチに腰掛けるなり、カバンの中身をひっくり返した。
今着ている服には異常がなかったと思うが、カバンの中身はそうもいかないかもしれない。
私が目を離したといえば、お風呂を上がった後。
ほんの数分だけど、透さんだったらできないこともできそうだし、発信機や盗聴器をカバンの中に入れるだけなら数秒あれば十分だ。
カバンの中は勿論、入っていたものを一つ一つ確認していったが特に怪しいものは見受けられなったった。
諸々の感情を組み合わせて出てきたため息をついて、空を仰いだ。
自分は一体何をしているんだろう。
その目的すら分からなくなってしまいそうで。
星が一つもない真っ暗な空は、まるで私の心の内を表しているかのようだった。
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「・・・・・・・・・」
あれから五分程、公園で空を眺めて。体が冷えてきてしまったこともあり、そこからは足早に工藤邸へと向かった。
一度玄関の前で立ち止まり、要らぬ迷いを見せて。
こうなれば明日にでも引越し先を考えないといけないな、と考えながら工藤邸玄関のドアノブに手をかけてゆっくりと開いた。
「おかえりなさい」
「・・・っ!!」
なるべく静かに開けたはずなのに。
いや、そもそも既に玄関で待ち構えていたような雰囲気だ。
今、一番会いたくない人物が、仁王立ちで腕組をして目の前に立っていた。