第27章 帰り道
暫くの間、他愛もない会話を交わした。
透さんがテニスをしていた時の話や、最近作った料理の話、透さんのトレーニング方法など、彼の事を中心に。
彼のことなら何を知っても嬉しかったが、特に過去を教えてくれるのは、何より嬉しかった。
今現在のことは何かで知ることはできそうだが、過去のことは彼の口からしか聞けないこともある。
そんな話が特に好きだった。
「あ・・・、そろそろ帰ります。着替えてきますね」
ふと時計に目を向けると、23時になりそうで。
慌てて渡してもらった服を手に取り、脱衣所に向かった。服を服置き場に置き、念の為盗聴器などの類を調べて。
透さんを疑っている訳では無いが、これで沖矢さんの家がバレてしまっては大変だから。
かなり入念に調べたつもりだが、着る予定の服には特に何かが付いている様子はなかった。
こうして知らず知らずのうちに、彼を組織の人間として扱うことに程々嫌気がさす。
着替えを済ませ、さっきまで着ていた部屋着を手に透さんの元へと戻った。
「これ、洗濯してまた持ってきます」
そう断りを入れて空いている袋に入れようとした時、その手を透さんに止められた。
「僕で良ければしておきますよ」
普段であれば断る。でも、なるべくここから何かを持ち帰るのは極力控えた方が良い気もする。
少しの間考え込んで、入れかけた服を袋から取り出した。
「・・・では、お言葉に甘えて」
「お任せ下さい」
そう言いながら、服を手渡して。
余計な手間をかけさせるのは不本意だが、今回ばかりは仕方がないと自分に言い聞かせた。
「では、私はこれで。赤井秀一の調査についての連絡、お待ちしてます」
「・・・近い内に」
どことなく違和感の残る声色にモヤモヤとしながらも、持ってきた僅かな手荷物を手に玄関へと向かった。
「透さん」
「はい?」
靴を履いてドアノブに手をかけたところで彼の名前を呼び、背中越しに返事を受け止めた。