第26章 心の傷※
「ん、ぁ・・・あぁっやぁ・・・っ!」
あの感覚がやってくる。
全てがどうでもよくなるようなあの気持ち。
快楽に飲み込まれて一瞬自分を失う瞬間。
こうなってしまえばもう自分ではどうすることもできない。
「あっ、だ・・・め、透さ・・・ん・・・っ!!」
息が上がりきっている中、切れ切れに訴えて。
『そんな声で鳴くんですね』
もう、目の前なのに。
快楽の沼に落ちる寸前、またしても沖矢さんの声が聞こえて。
「透さん・・・、ま・・・っ、て・・・!」
そんな言葉じゃ、透さんが止めてくれるはずもなく。
このままではまるで沖矢さんに愛撫されているみたいで。そう考えると、今の行為にはただただ嫌悪感しか感じられなくなった。
「待って・・・っ!!」
首に回していた腕を解き、思わず透さんの腕を掴んで柄にもなく声を上げた。
指はナカに入ったままだが、ようやく動きだけは止めてくれて。
怖くて透さんの顔が見ることができず、肩で息をしながら深く俯いた。
暫くの間、沈黙の時間が流れて。
満たして欲しい、なんて自分で言っておきながら。
「・・・顔を上げてください」
息も少し落ち着いてきた頃、優しく様子を伺うように声を掛けられるが、どうしても彼に顔を見られることも、彼の顔を見ることもできなかった。
感じる必要のない罪悪感なのかもしれないが、彼を裏切ってしまった気持ちがどうにも強くて。
言葉を絞り出すこともできず、俯いたまま小さく頭を横に振った。
「・・・っん・・・!」
彼の言葉に拒否を示した瞬間、入っていた指をゆっくりと抜かれて。
不意打ちだったこともあり、僅かだが体がピクっと反応し、小さく声が漏れた。
呼吸は落ち着きを見せていても、鼓動だけは休まることを知らないみたいで。
「・・・・・・っ」
それを落ち着けるように優しく、でも強くしっかり透さんが抱きしめてくれた。
「何があったのか・・・話してくれませんか」
これだけ聞こえるはずのない沖矢さんの声に動揺していれば、不審がるのもおかしくない。
透さんにはなるべく正直でいたい気持ちはあるが、これだけは絶対に話せない。
それが苦しさを大きくさせた。