第25章 正しく※
「ん、んん・・・っ」
透さんが首元を強く吸い上げるのを感じながら、彼の肩に添えていた手に自然と力が入った。
「・・・悪い虫がよらないように、虫除けです」
吸い付いていた唇を離すなり、そう言われて。
もしかして、と思った時には既に遅かった。
「つけたんですか・・・!」
つけられたであろうキスマークを確認しようとするが、首元に近いせいでそれは叶わなかった。
あれだけ強く吸われていれば、きっとくっきり付いているはずだろうけど。
「何か不都合がありましたか?」
「だ、誰かに見られたら・・・っ」
恥ずかしい、で済めば良いのだけど。
「見られるような相手がいるのですか?」
その瞬間、透さんの目付きが変わった。
何かを感じ取ったような、探偵の目をしている。
それに一瞬、緊張が走った。
「いません・・・けど・・・」
本音は嘘だ。
残念ながら思い当たる人物が一人いる。
でも、それだけはバレる訳にはいかない。
「でしたらもう一つ」
そう言うなり、今度は巻いていたタオルを少しズラされ、胸元に吸いつかれた。
先程とは少し違う刺激に、体も敏感に反応を示して。
「と、る・・・さん・・・っ」
首元で感じていたくすぐったさは、そこには無くて。感じるのは、もっと触ってほしいという醜い欲望だけだった。
「・・・できれば誰にも見せないでくださいね」
胸元につけられたそれは流石に目視ができた。
くっきりと残るそれは、恥ずかしさや動揺もあるが、どこか優越感に似たような感情をもあって。
私の身も心も彼のものだという印のような。
「・・・透さんの所有物みたいですね」
冗談混じりに笑いを含みながら、そうであれば良いのにという希望を吐露した。
「残念ながら所有物ではなく、僕の大切な人という証・・・ですかね」
それが嘘か本当かなんてこの際どっちでも良い。
今、この時間は私と彼だけのものだから。
それを共有し合えるのであれば、それで良い。
「・・・ありがとうございます」
情けない顔で形だけのお礼を伝えて。
偽りでも、嘘でも、形だけでも良いと思っているのに。
こんなにも苦しいのはなぜだろう。