第25章 正しく※
「・・・え?」
中へ入ると、何故か湯船にはお湯が張られていて。
お風呂に入るなんて私が突然言い出したことで、それまでは一言も言っていなかったのに。
「服を着替えていないということは、お風呂はまだなんだと思いまして」
こんなところでも透さんの推理力を誇示されて。
いや、少し考えれば分かることか・・・。
でも、そこでどうして入る予想になっているのかは、敢えて聞かないでおくことにした。
軽く彼に背中を押され、中へと足を進める。扉を閉められ、改めて逃げ場がないことを感じた。
・・・でも、今はそれで良い。
「座ってください。僕が洗いますから」
「い、いえ・・・、自分で・・・」
いつの間にか満面の笑みでスタンバイされていて。
両手を振って断ろうとしたが、途中で言葉を止めた。
「・・・や、やっぱり・・・お願いします」
今は彼に全てを委ねたい。
身も心も彼の手で染めて欲しい。
「今日は、やけに素直ですね・・・?」
透さんが差し出した椅子に、彼に背を向ける形で腰掛けると、不思議そうにそう言われて。
いつもの自分なら勿論断っていた。
全ては沖矢さんのせいだ、と心の中で彼を呪って。
「・・・だめ、ですか?」
「いえ、とっても可愛いですよ」
少し振り向きながら問いかけると、彼は小さく笑いながらそう返しながら、ボディタオルを手に取った。
ボディソープを出し、泡立ったところで肩から丁寧に洗い始めて。
他人に体を洗ってもらうことなんて今までなかったけれど、こんなに気持ちいいものだとは思わなかった。
肩、腕、足・・・と、タオルで覆われていない所は一通り洗われて。
「失礼します」
そう断りを入れて、透さんはタオルの下へと手を忍ばせた。背中はとても気持ちいいのだけれど、前はそうもいかなくて。
「・・・んっ、・・・と、透さん・・・!」
たまたまなのか、わざとなのかは分からないが、胸の突起に透さんの指が当たって甘い声が小さく漏れた。
「失礼しました」
笑いを含んだ言い方。到底それは謝罪の言葉には聞こえなくて。
少しだけ妙な気持ちが高まり、鼓動も早くなっていく。このもどかしい感覚が、私をもっとおかしくさせた。