第25章 正しく※
「・・・ひなたさん」
「は、はい・・・っ?」
またボーッとしてしまった。透さんといるのに、他の男性のことを考えてしまうなんて。
それも透さんが嫌っている沖矢さんのことを。
「大丈夫ですか?顔色が良くないように見えますが」「だ、大丈夫です」
必死に取り払おうとするが、沖矢さんの言葉や感覚が嫌という程思い出されていく。
『彼の愛は偽りかもしれません』
ドクン、と心臓が音を立てた。
今、一番思い出したくない言葉なのに。
何度も何度も、脳内で再生されて。
「・・・っ」
思わず耳を塞いで、顔を歪めた。
幻聴のようにハッキリと聞こえるそれは、私を少しづつ壊していった。
「ひなたさん、大丈夫ですか・・・!」
透さんが私の肩を掴んで名前を呼ぶ。
でもその声より、沖矢さんの声の方が大きくて。
「・・・透、さん・・・っ!」
耳を塞いでいた手を取り、そのまま彼の腕を掴んで勢いよく顔を近付けた。
「キス・・・してください・・・っ」
突然の言動で目を丸くする透さんにそう懇願した。
私が今考えたいのは貴方だけ。
これ以上、沖矢さんなんて出てこないようにめちゃくちゃにしてほしい。
暫く戸惑った様子の透さんだったけれど、数秒後にはいつもの落ち着いた表情に戻り、顔にかかった髪を優しく手で避けてくれて。
「口、開けてください」
彼の申し出に小さく口を開けた。
途端にそれは彼の口によって蓋をされて。
「ん、ぅ・・・んっ・・・」
いつもよりも奥に、いつもより濃厚に、キスだけで意識が飛んでしまいそうな程、深く口付けられた。
顔の角度を変える度に漏れる声と音が脱衣所に響いて。
苦しいけれど、今はそれくらいが良い。
それしか考えられないくらい、苦しく、痛くしてほしい。
どうせ壊されるのであれば、透さんの手で壊してほしい。
「・・・ん、はっ・・・ぁ」
ゆっくりと離された唇は、いつもより名残惜しくて。
もっと、彼を感じていたい。そんな気持ちばかり出てきて。
「体が冷えます。とりあえず中へ」
そう促され、私は透さんと共にお風呂場へと足を進めた。