第24章 裏切り※
「すみません、ちょっと風に当たりたくて・・・」
嬉しさはあったが、申し訳なさも少なからずあって。
視線を足元に落として、謝罪の言葉を告げた。
「スマホ、ちゃんと持っていますか?」
「え?ええ・・・」
彼の言葉を聞いてスマホをカバンから取り出すが、電源ボタンを押しても反応を示さなくて。
「あれ・・・っ」
恐らくバッテリー切れ。最近、スマホを触る機会が減っていたから、その辺りを気にすることが無くなっていて。
「・・・すみません」
これでは持っていても仕方がない。再び視線を下げて彼に謝った。
その数秒後、首元がふわっと暖かくなって。
「謝らないでください。今夜は冷えます、早く事務所へ」
優しくそう言われながら、さっきまで透さんがつけていたマフラーを巻かれたことに気付いたのはその時。
僅かに感じる彼の温もりと香りに、色んなものが溶かされるようだった。
事務所、といっても案内されたのは二階の部屋で。
そういえば、ここへはミステリートレインに乗る少し前に来たっきりだ。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
いつものように透さんは扉を開けてくれて。中に入ると、部屋は程よく暖められていた。
「夕飯は、食べられましたか?」
「いえ・・・まだ、ですけど・・・」
少し話をして帰るだけのつもりだったから、ここでご飯を食べるとは思っていなくて。
「パスタならすぐに準備ができます、少し座って待っていてください」
「あ・・・ありがとうございます」
断るのも何だか悪くなってしまい、彼の指示に大人しく従った。
それ以上に、透さんの料理が食べたいと思ったのもあるけれど。
言われた通りソファーへ腰掛け、炊事場に立つ透さんに目を向けた。
テキパキと作業をこなすその姿は、いつ見ても圧巻で。彼にできないことはないのだろうか。
「どうかされました?」
「い、いえ・・・!」
私の視線に気付いたのか、首を傾げながら私に尋ねてきて。思わず彼から視線を外した。
そして、部屋に入っても尚、巻っぱなしだった透さんのマフラーをゆっくりと外して。それを丁寧に畳んで膝の上に置いておいた。
そういえば、彼は何故私を呼び出したのだろう。電話で言っていたように、ただ会いたいという訳ではきっとないんだろうし。