第23章 不都合
「し、信じませんよ・・・。からかわないでください・・・」
彼から体を離そうと、かなり力を込めて押し出すがそれはビクともしなくて。
「からかってなどいません。至って真剣な質問です」
そう言う彼は真っ直ぐこちらを見つめていた。
声のトーン、雰囲気、視線。それら全てがこれは冗談でないと物語っていた。
「例えそうだとしても、私は透さんを・・・」
「彼より僕の方が、素の貴女を知っているように感じますがね」
そう言われて初めて考えた。
確かに、透さんに猫を被っている訳ではないが、常に気を使っている気はする。でもそれは私が勝手に緊張しているからだ。
沖矢さんには少なからず、素の自分が出ている気がするのは事実だ。
「もう一緒に住んでみたりもしてますし」
「それは不可抗力です」
「でも、事実ですよね」
そうだけど。だから何だと言うのだろう。
私は何を言われようと透さんを裏切ることはできないし、しないのだから。
「彼の愛は偽りかもしれません」
・・・それは分かっている。
でも、それでも良いと思っている。
「しかし、僕は偽りではありませんよ」
そう言いながら顎を軽く掴まれて。
反射的に再び彼の体をさっきより力を込めて押すが、やっぱりビクともしなくて。
逃げなきゃ、という意識しかその瞬間は働かなかった。
「・・・っんん!」
油断しているところに沖矢さんは突然唇を重ねてきた。
体が小さな拒否を見せて固く閉ざされていた唇だが、沖矢さんにひと舐めされると、溶けるようにそれは開かれて。
「ふ・・・ぁ、ん・・・」
透さんとは違う深いキス。
優しく、でもどこか大胆で。
舌が私の口内を調べ回るように侵入してくる。動く度にくちゅっと音を立てるそれが罪悪感を掻き立てた。
「は・・・ん、んぅ・・・」
激しくはないけれど、物足りなさというものはなくて。苦しさは少しあるが、呼吸の隙は与えてくれる。
所々に感じる優しさに少し怒りすらあった。
「ん、ぅ・・・っは・・・ぁ」
ゆっくりと、名残惜しそうに唇が離れた。
力が抜けてしまった体を支える為、いつの間にか彼に体を預けていたことに今更気が付いて。
「そんな顔をされるんですね」
その言葉と笑みにどこか恥ずかしくなり、視線を外した。
この何とも言えない罪悪感はどう片付けたら良いのかわからなくて。