第23章 不都合
「何か分かりましたか?」
楠田陸道の名前について疑問を投げかけない辺り、やっぱり沖矢さんも何か知っているんだと思った。
「・・・杯戸中央病院に行ったところ、コナンくんに会ったので彼に聞きましたが、何も教えてくれませんでした」
彼に関する情報といえば。
「その後に会った高木刑事という人から、あの病院の元入院患者だったこと、爆弾騒ぎの何日か前に見つかった破損車両の持ち主が、その男だったことは聞きました。その車に飛沫血痕があったことも」
私が今持ち合わせている情報はそれだけだ。
「・・・彼は、亡くなっているんですか?」
「どうでしょうね。遺体は見つかっていませんから」
ということは車両は彼のものだが、あの血痕は他人のものの可能性もあるということか。そうなるとかなりややこしくなってきそうだ。
「そもそもどうして楠田陸道を?」
今度は沖矢さんが尋ねてきて。
「透さんの事務所で資料を整理していたら、病院の資料と共に彼の名前が書かれた写真が入っていたので。ちょっと気になって・・・」
そこまで言うと沖矢さんは何か考える素振りを見せた後、フッと笑ってみせた。
その余裕を見せつけるような笑みはすごく不気味にも見えた。
「彼はどうしても、貴女を失いたくないようですね」
言いながら何故か沖矢さんが詰め寄ってきて。玄関の扉に背をつけたまま、後ろに下がれずにいると、沖矢さんは私の頭上付近に腕をつけて顔を近付けた。
近過ぎる距離に、何故か鼓動が早くなっていく。
「ど、どういうことですか」
思わず彼に動揺してしまって。
彼の顔が、すぐ目の前で。
何とも思っていない相手でも、さすがにこの距離だと緊張はしてしまう。
「言葉、そのままの意味ですよ」
透さんが私を・・・失いたくない?
それは探偵の助手として?それとも利用する立場として?
「ここまでくると妬けてしまいますね」
沖矢さんの言葉の意味が分からない。
それ以上に、何か嫌な予感がする。
「僕も貴女のことが好きだと言ったら・・・信じますか?」
嫌な予感は的中した。
彼の口から出たとは思えない台詞に、一瞬言葉を失ってしまった。