第3章 ポアロ
『分かりました。今日は本当に本当にありがとうございました。おやすみなさい。』
そう返事を打って送信する。心臓を落ち着かせるように大きく深呼吸をした。
疲れているんだ、きっとそうだ。言い聞かせるように心の中で何度も呟き、片付けを始めた。片付けが終わるとそのままベッドに潜り込み、いつの間にか眠りに落ちた。
翌朝、カーテンの隙間から漏れる陽の光で目が覚めた。こんなにぐっすりと眠ったのは何時ぶりだろう。
いつもよりスッキリとした体を起こしてお湯を沸かす。久しぶりにコーヒーでも入れてみようと思った。
「安室さんのコーヒーには負けちゃうけど」
ポアロで働くことになったのだからいずれ教わるかもしれないが、今度安室さんに会ったらコーヒーの銘柄や入れ方をしっかりと教わろう。
あとミルクティーも。
「今日は何しよう」
趣味の機械弄り以外の何かをする意欲が湧いているのも久しぶりだった。これも安室さんのお陰だろうか。
「あ、お弁当・・・」
そういえば安室さんに頼まれていた。特にこの日と指定されていた訳ではないが、練習くらいしておかないと目も当てられない事態になりかねない気がした。
早速買い出しに向かい、無難な卵焼きから練習を始めた。甘いのが好きだろうか、それとも出汁の入ったものが好きだろうか。
そんなことを悶々と考えながら1日中ひたすら色んな料理を作った。
「・・・作り過ぎたかな」
いくらなんでも1人で食べるには多過ぎる量を作ってしまった。明日ポアロで梓さんにおすそ分けして感想を貰おう。
小分けにされたそれを冷蔵庫へ一旦しまい、あっという間に私の休日は終わってしまった。
次の日、昨日作ったものを持って指定されていた時間にポアロへ向かった。なんだか事務所とは違う緊張に不安が募る。
「おはようございます」
「おはようございます、如月さん」
深呼吸をしてから開けたドアの向こうからは思っていた人物とは違う声が聞こえた。