第20章 追討ち
私が透さんの助手を辞めるわけないという絶対的な自信が、その笑顔から読み取れて。
ほんの少しだけ悔しくて。
「じゃあ、帰ろ。如月さん」
「うん。・・・あ、その前に着替えてくるね」
さすがにテニスウェアのまま帰るのは恥ずかしさが持たない。
まだ力の入りにくい体のままだったが、何とか立ち上がって更衣室へと向かった。
本当は空いている部屋を借りたかったが、警察の人が別荘内をウロウロしていて気が気じゃなかった為、少し狭い上に離れてはいるが個室になっている更衣室を使うことにした。
外へ出ると、もう日が沈みかけていて。
「・・・どうするんだろう」
更衣室のドアノブに手をかけながら今後の事を考えた 。まさか本当に毛利探偵の家に泊まる訳ではないだろうし。
それにこのスマホ。
考えたくはないが、透さんから渡された物だ。追跡アプリ等が入っていないとは言いきれない。
それらの不安から漏れた言葉だった。
とりあえず車内でコナンくんにどうにか相談しないといけない。そう思いながら更衣室の扉を開けた。
「きゃ・・・っ!?」
刹那、突然後ろから押し込まれるように背中を押され、半ば転ける形で更衣室の中へと入った。
「・・・っ!」
振り返ろうとした時、瞬時に口を塞がれて。目は反射的に瞑ってしまった。
ミステリートレインであの謎の男にそうされたように。
「何を、ですか?」
「・・・!」
限りなく小さい声ではあったが、聞き馴染みのある声に目を開き、その人物に視線を向けた。
目の前にはさっきまで別荘内にいた透さんがいて。
驚いた私を見て口角を上げ、そこには人差し指が添えられていた。しっ、と小さく黙るように私へ指示をしてから、口を塞いでいた手を離した。
「ど、どうしたんですか・・・」
動けない訳ではないが、近過ぎるその距離に心臓がバクバクと音を立てて。
「それはこちらの質問ですよ。何を悩んでいらしたんですか」
あのポツリと出てしまった不安の言葉。
一番聞かれたくない人に聞かれてしまったようだ。
「き・・・今日の晩御飯を、どうしようかな・・・と」
かなり苦しいことは分かっているけど。もうそれ以外の言葉が出てこなくて。