第118章 番外2※
「待って!零!!」
咄嗟に彼の腕を掴み、口元から引き剥がしたけれど。
そこにはくっきりとした跡と、溢れ出る鉄の匂いの正体が服へとじんわり滲んでいて。
やはり異常だ。
いつもの彼では無い。
それを確信しつつ、どうすべきなのか、混乱する頭で必死に考えていると。
「・・・すまない」
考えが上手く纏まらない中、依然として視線を逸らした上に呼吸は荒いままだが、彼はポツリと謝罪の言葉を口にした。
「う、ううん・・・」
会話が・・・できる。
そんな当たり前のことだったが、異常な様子を幾つか見たせいか、その事には酷く安堵した。
先程よりも、少し冷静さが戻っているようにも思える。
「とりあえず、救急箱持ってくるね・・・」
であれば、まずは風見さんへ連絡と、傷の手当てをしなければ。
なるべく落ち着いて声を掛け、ゆっくりとベッドから降りようとした瞬間、彼は引き止めるように、私の腕を素早く掴んだ。
「・・・・・・ッ」
驚き振り返ると、さっきまで全く合わなかった彼との視線が合って。
その表情は、眉を顰め、苦しそうに何かを堪えているように見えた。
「すまない・・・少し1人に、させて・・・くれないか・・・」
折角合った視線はすぐに逸らされ、絞り出すような声で私にそう伝えて。
その瞬間、自分の経験からなのか、何かを察した気がした。
「私にできることなら・・・するよ・・・?」
「・・・っ」
そう、恐る恐る伝えた時。
彼の表情に僅かな変化と、ピクリと震えた体が目に入った。
やっぱり・・・そうなのかもしれない、という確信を持ち始めたと同時に、大きな不安が過ぎった。
「・・・大丈夫だ。恐らく数時間で・・・落ち着く」
勘のいい彼のことだ。
私が察したことに、気付いているだろう。
それでも拒否するのは、彼のプライドなのか。
それとも私では対処できないからなのか。
「・・・私じゃ、ダメ・・・?」
呼吸が荒くなる一方の彼の手を掴み返し、ギュッと握りながら尋ねた。
「・・・ッ」
きっと彼は・・・薬を盛られている。
どういう経緯か分からないが、それを知るのは私の役目ではない。
私で早く楽になれるのであれば・・・そうするのが、きっと今の私の役目だ。