第117章 安室3
「アナウンサーの水無怜奈が入院してたって噂になったり・・・ケガ人が押し寄せてパニックになったり・・・爆弾騒ぎもあったとか・・・」
水無怜奈のことは噂止まりか。
まあ、あらゆる方向から圧力が掛かっている、当然のことだが。
その他のことも多少覚えがある為、それについて口は開けなかったが。
「じゃあ、楠田陸道って男の事とか知りませんよね?」
そこまで色々と知れているなら、あの男のことも少しは知っているかもしれない。
そう思い、単刀直入に尋ねてみた。
これはどこか宣戦布告のようなものでもあって。
僕の脅威になりそうな小さな探偵の前で、僕が情報を得る瞬間を見せ付ける。
それが彼を追い込むのであれば・・・そうしてみたいと思った。
その上、彼の反応はこちらとしても情報になる。
勿論、こちらが追われる身になる可能性があるのは、重々承知で。
「楠田陸道?ああ!そういえばその爆弾騒ぎの何日か前に、この近くで破損車両が見つかって・・・その車の持ち主が楠田陸道って名前でしたよ!」
この刑事、それなりに記憶力が良いようだ。
それとも、彼の中で強烈な記憶を残しているか・・・だ。
「この病院の入院患者だったそうですけど、急に姿をくらましたらしくて」
FBIに囚われた可能性も考えていたが、その可能性は次に聞いた刑事の言葉で低いことを察した。
「謎の多い事件でね・・・その破損車両の車内に大量の血が飛び散っていて。その中には一ミリに満たない飛沫血痕もあったらしいし」
一ミリに満たない飛沫血痕・・・拳銃か。
つまり楠田陸道は、車内で自ら命を絶った可能性が高い。
FBIに囚われる以前に、彼は諸々の失敗を犯している。
つまり、FBIから逃げきれたとしても、組織の手から逃れることはできない。
いずれにせよ、彼の行き着く先は・・・。