第117章 安室3
「どうかしたか?」
「!」
ハッと我に返った瞬間、僕は毛利探偵に声を掛けられたのだと気付いた。
目の前の情報より、記憶が先行していた。
いや、目の前の情報なんて、数秒の間無かった。
「あ、いえ・・・」
らしくない。
そう自分を分析しつつ、止めていた思考を一気に動かし始めた。
「僕のあだ名もゼロだったので、呼ばれたのかと」
・・・嘘では無い。
こういう時の真っ赤な嘘は、バレるものだから。
「なんでゼロ?確か名前は透だったよな?」
「透けてるってことは何も無いってこと・・・だからゼロ。子どもがつけるあだ名の法則なんて、そんなモンですよ」
そう、真っ赤な嘘は。
違う色を混ぜてしまえば、それは真っ赤ではなくなる。
こうして人は簡単に、騙されていく。
・・・今も僕に睨みをきかせる探偵くんは、どうか分からないが。
「あの、私はそろそろ帰りますね。妃さんへのお見舞いも済みましたし・・・」
僕の様子を横目に、彼女はコナンくんと何かを相談しているようだった。
どこまで2人で情報共有をしただろうか。
いくらそれを交わしたところで、僕が追い回すだけだが。
「では、玄関まで送りますよ」
早速、僕から距離を取ろうとする彼女に笑顔で提案すると、また僅かに表情が強ばった。
・・・こうして、僕の中では安堵と虚しさが入り交じり、感情をぐちゃぐちゃに潰されていた。
「じゃあ、俺達も帰るとするか」
毛利探偵のその言葉に、どこか安心するようなその表情にも。
また僕の胸にチクリと何かが刺さったが、気付かないフリをした。
その後、全員で病院の出入口へと向かう最中、毛利探偵から妃弁護士の容態を聞いて。
「へぇー、毛利先生の奥さん急性虫垂炎だったんですか」
「ああ・・・焦って損したぜ・・・」
こうして無意識に情報収集するのは、最早癖だ。
事件や組織に関係あるかどうかは関係なくて。
自分の周りで怒っている全てを把握しておきたいと思ってしまう。
・・・後に、後悔しない為に。