第117章 安室3
彼女が僕の助手を辞めないという自信はあった。
そうだろう?という挑発的な笑顔を彼女に向けたのも確かだ。
・・・けど、絶対が存在しないことは、僕が一番よく知っている。
余裕そうに振る舞いはするが、そこに自信なんていつもついてきてはいなくて。
僕はただそうするしかなく、自分を言い聞かせながら毎日立ち向かうしかない。
「じゃあ、帰ろ。如月さん」
「うん。・・・あ、その前に着替えてくるね」
そのテニスウェアは、僕としても早く脱いでほしい。
そこには色んな意味が含まれているが。
まだ別荘内には警察関係者がいるせいか、彼女は少し離れた更衣室へと向かって。
その後をひっそりつけると、いつも以上に気配を殺した。
外はもう日が傾きかけている。
・・・こういう時間は、昔を思い出してしまう。
懐かしい、僕の中での大切な記憶を。
「・・・どうするんだろう」
更衣室のドアノブに手をかけながら独り言を呟く彼女に、ようやく我に返った。
その手には僕が渡したスマホが握られている。
独り言の理由がそれだけではないだろうが、悩ませた原因になってはいるだろうな。
ただそれが「どうしよう」ではなく「どうするんだろう」という、他人が関わるような物言いに、案の定というため息が漏れた。
その瞬間、彼女が更衣室のドアを開けて。
それを確認すると、彼女の元へと走って向かった。
「きゃ・・・っ!?」
勢いに乗ったまま、彼女を押し込むように背中を押し更衣室に入り込むと、素早く鍵をかけた。
「・・・っ!」
振り返ろうとしたひなたさんの口を手で塞ぐと、怯えるように目を瞑る彼女の姿が目に映った。
手荒だという自覚はあるが。
彼女の警戒心を煽るには、それくらいしないといけないと考えて。