第117章 安室3
「えー!如月さん、今日は僕ん家に泊まりに来てくれるんじゃなかったの?」
助け船を出すように、隣にいたコナンくんが彼女の腕を軽く引きながら、咄嗟にそう言葉を挟んだ。
時折見せる、あの子どものような口振りで。
・・・ああ、そういえば彼は子どもだったか。
分かりきった事実を心の中で小さく呟きながら彼を見れば、どことなくその目つきは子どもから離れたものになっていて。
「あれ、いつの間にそんな話してたの?」
近くにいた蘭さんは、覚えのないコナンくんの話に首を傾げた。
蘭さんだけでなく、コナンくんが腕を引き、戸惑いを見せているひなたさんも、覚えはないようだが。
「ラケットが頭に当たる直前に話してたんだ、伝えるのすっかり忘れちゃってた」
「・・・ということなので、大丈夫そうです」
けれど、ひなたさんがその話に乗るということは、少なくとも僕との距離は保っておきたいようで。
どこかに連れて行かれるとでも思っただろうか。
それとも、これ以上探られることを恐れてだろうか。
「そうですか、では帰られたら連絡ください」
警戒心は強くなり過ぎると、時に脆くなる。
彼らがそういう動きを見せるのであれば、こちらもそれなりを動きをするまでだ。
「・・・行動前に僕へ連絡する義務は、まだ終わってませんよ。僕の助手を辞めるのでしたら話は別ですが」
ひなたさんにだけ、聞こえるように。
笑みは絶やさぬまま、そう耳元で囁いた。
彼女に瞳には、この笑みがどう映っているだろうか。
良い方向に映っていないことは、彼女の表情を見れば確かだと確信できるが。
少し反抗的にも見えるそれは、僕の中の何かを小さく擽った。