第117章 安室3
「何を、ですか?」
「・・・!」
潜めた声で問えば、閉じていた彼女の瞼はパッと開いた。
声で僕だと、ようやく気付いたのだろう。
口角を意識的に上げ、口元に人差し指を添えながら静かにするよう告げると、彼女の口を塞いでいた手をそっと離した。
「ど、どうしたんですか・・・」
流石にここまで追ってくるとは、彼女も思わなかったのか。
・・・それで良い。
本来はそうあるべきだ。
こういう事まで警戒しなければいけない状況の方が異常だ。
けど、今の彼女は・・・もう少し、身の危険というのを思い知った方が良い。
「それはこちらの質問ですよ。何を悩んでいらしたんですか」
先程の呟きから考えて、今後のことは彼女自身が考えて動く可能性が低いだろう。
もう既に、そうなっているのかもしれないが。
だからこの後の言葉が、ただ逃れる為のものだと分かった上で、僕は聞かなければならなくて。
「き・・・今日の晩御飯を、どうしようかな・・・と」
僕を・・・公安を一番に頼ってほしいが。
それを叶わなくしているのは僕の方で。
「そうですね・・・そういう事なら、僕の特製ハンバーグなんていかがですか?」
笑みも、誘い込む言葉も絶やさない。
本心でも、叶わないからこそ冗談めいた言い方にもなってしまうが。
「・・・透さんの家に連れて行ってくれるんですか?」
「誘ったら来てくれますか?」
そして質問も、絶やさず。
もし彼女が僕に会いたいと言った時は、何かある時だろう。
そんな悲観的な考えしかできないことに、心へチクリと針が刺さった。
「呼んでくれるなら、喜んで」
彼女はそう言ったが、独断で来ることはないだろう。
こんなにも怯えた表情を滲ませる人が、そんな事をするとは思えない。
それでも僕に立ち向かおうとするひなたさんに、思わず小さく笑いを零して。
「ひなたさんが心からそう望むなら、本気で誘いますよ」
これは嘘では無い。
安室透やバーボンとしての言葉でもない。
降谷零の・・・一人の男としての、言葉で。