第117章 安室3
あれから、別荘内で事件が起きた。
毛利探偵と、あの小さな探偵が訪れたこの場所で、何かが起きない方が珍しいのかもしれない。
そんな事を思いながら、不審な音がした部屋をピッキングで開き、中にいるコナンくんを扉の隙間から確認している最中だった。
「開けるな!」
血相を変えた彼は、珍しくそう叫んで。
その言葉は、扉が何かに押され開かないことに対し、無理に開けようとしたことへの叫びだった。
「開けちゃダメだよ・・・。ドアを塞いでるの、石栗さんの遺体だから」
「え・・・!?」
続いて説明された彼の言葉に、その場にいた一同が動揺した。
この別荘に集まっていたグループの中の1人が、遺体となって扉を塞いでいるのだから、当たり前ではあるが。
中にいるコナンくんも先程動揺したように叫んではいたが、遺体に対する冷静さは異常とも言えた。
一体これまで、どれ程の現場に立ち会ってきたのだろうか。
そんな呑気とも言えるような考えをしていると、背後が少しずつざわつき始めて。
「ひなたさん・・・!?」
心配そうな蘭さんの声に振り返ると、フラフラと力を無くしたひなたさんが呼吸を荒らげていて。
その姿を見た一瞬、コナンくんとは反対に僕の中から冷静という言葉が消えた。
「ひなたさん、聞こえますか!」
気付けば彼女に駆け寄り、体を支えて叫んでいた。
数時間前のコナンくんの時は、もう少し冷静に動けていたのに。
「とおる・・・さ、ん・・・」
僕の呼び掛けに彼女は、細く力ない声で僕の名前を呼んだ。
・・・嫌な、感覚だ。
ただ少し、彼女は気分が悪くなっただけだと頭の中では分かっているのに。
彼女がどこか遠くへ行ってしまうような感覚に襲われる。
・・・それはきっと、僕の中での過去の出来事が関係していて。
「・・・!」
見た目でしか判断できないが、意識はもう殆ど無いだろう。
それでも彼女は、必死に僕へと手を伸ばしていて。
その手を掴むと、無意識に強く握ってしまった。
どこにも行かないでくれ・・・と、身勝手な願いを心の中で叫びながら。