第2章 就職先
「女の子待ってたんです!」
「あ・・・っ、えっと・・・」
どうやらバイトへの誘いの話は勝手に進んでいたようだ。
私の手を取り喜びを表現する彼女の明るさに戸惑いながら、安室さんに助けを呼ぶ視線を送る。
「如月さん、そちらは榎本梓さんといいます。僕の先輩ですね」
「あ!私ってば挨拶もしないで・・・ごめんなさい!」
目線に気付いた安室さんが助けてくれる。それに対して梓さんと紹介された彼女は勢いよくペコっと頭を下げた。ちょっと幼顔の面持ちからか私よりも歳下のように感じる。
「えっと、如月ひなたです。よ、よろしくお願いします・・・!」
頭を下げた梓さんに私も慌てて自己紹介をして頭を下げる。それを見てか安室さんがくすくすと笑っている声が聞こえた気がした。
なんて温かい場所なんだろう。私なんかがここにいて良いのだろうか。やっぱり悲観的になってしまう。
「あのひなたさんって何歳ですか?」
キラキラとした瞳は変わらず、唐突に私に興味を向けてくる。なんだか小動物みたいで可愛い。
「に、26です」
「え!歳上なんですか!?」
同じくらいか歳下だと思ってました・・・と驚いた様子でポカンとなる梓さん。
「梓さんはおいくつなんですか?」
「23です!良ければ仲良くしてくださいね!」
眩しいほどの笑顔に看板娘の名が相応しいな、と考えながら「こちらこそ」ともう一度頭を下げた。
「では、僕は上がる準備してきますので。如月さんちょっと待っててもらってもいいですか?送っていきます」
「え?だ、大丈夫です・・・!家近くですし」
「女性の1人歩きは危険ですよ」
危険も何もまだ夕方でそこそこ明るい。人通りだってある。
「本当に大丈夫ですから・・・!」
「では上司命令ということで」
押し切られてしまった。いつもの笑顔を向けられた後、安室さんは裏の方へと消えていった。
「いいんでしょうか・・・」
「こういう時は甘えちゃっていいんですよ!」
なんだか梓さんが楽しそうだ。彼女を見ていると自然と笑顔が移って元気が出る。
安室さんが支度をしている間、梓さんとポアロのシフトについて話をした。初出勤は明後日だ。