第2章 就職先
「僕の奢りです」
「そんな・・・お昼も作って頂いたのに悪いです・・・!」
「気にしないでください」
「気にします!」
そうですか・・・と考える素振りを見せた後、片方の手のひらにこぶしをポンッと乗せて何か閃いたことを示してみせた。
「では今度如月さんのお暇な時で構いませんので、僕にお弁当を作っていただけませんか?」
「お、お弁当ですか・・・?」
正直料理は得意ではない。でもそれで安室さんが納得してくれるのなら。
「・・・味の保証は致しかねますよ」
「楽しみにまってます」
その期待に満ちた笑顔は今の私に大きなプレッシャーを与えた。不安を流すようにミルクティーを胃へと流し込んだ。
「そうだ、話は変わりますが・・・」
何かを思い出したのかカウンター越しに安室さんが少し両肘をつく形で身を乗り出す。持っていたティーカップをソーサーへ戻し、安室さんへ目線を移す。
「如月さん、ポアロでも働きませんか?」
あまりに突然のことで声も出なかった。それは安室さんの助手としてのお仕事だろうか、それとも単純にポアロの人手が足りていないということなのか。
「例外もあるでしょうが、基本的には僕がシフトに入れない時に入ってもらう形で。あと、ポアロがあるときは事務所の仕事は入れませんので」
どうやら後者のようだ。どちらにせよ、断る理由は特に見つからなかった。安室さんがいない時を前提とした話には、少しガッカリしてしまった気もするが。
「・・・私に務まるでしょうか」
「如月さんなら大丈夫ですよ」
安室さんの笑顔を見ていると頑張れる気がする。昨日会ったばかりなのに。どうして彼の言葉は簡単に信用できてしまうのだろうか。
「頑張ります」
「ありがとうございます、助かります」
兄のことでお世話になっているし、依頼料を払っていない上に色々面倒までみてもらって。少しでも力になれたらと思った。
ミルクティーを飲み終わる頃、奥から昨日見た女性の店員さんが顔を見せた。
「安室さんお疲れ様~」
どうやら休憩から戻ってきたようだ。
「あ、梓さん。さっきの件、如月さんからOKの返事頂きましたよ」
「え、ホントですか!」
店員さんの目付きが変わった。キラキラとした瞳を輝かせながら、小走りでこちらに向かってきた。