第116章 安室2※
僕が、情報を掴んでいることは悟らせない。
だから何度も、彼女に確認をして気持ちの油断を誘った。
沖矢昴と協力しているのなら尚更。
「本当に、友人の家にいます。あの時からちょっと体調を崩して・・・一人で家にいるのも不安だったので、そのまま友人の家でお世話になってます」
・・・ただ、それは彼女も同じようだった。
僕は公安だからという、破れない壁があるけれど。
彼女に何の壁があるのか。
そうまでして僕に嘘をつき続ける理由は何なのか。
「だったら僕に連絡をしてくれれば」
「透さんの迷惑になりたくなかったんです」
・・・安室透はともかく、バーボンに本音が話せる訳がないか、と分かりきっていた事実にダメージを受けて。
「・・・もう少ししたら家には戻りますから。落ち着いたら・・・ポアロにも」
家やポアロに戻ったとしても。
もう、僕の元には戻ってこないだろうな。
・・・いや、最初から来てはいなかったのかもしれない。
「・・・そうですか」
私情を僅かに挟んだだけで、既に僕の負けだ。
情け等掛けてはいけないはずなのに。
どうしても・・・放っておくことができなくて。
抱きしめていた彼女の体を離すと、彼女の目を見つめた。
「もう一つ、聞いても良いでしょうか」
「なんですか・・・?」
こうなれば、もう突き放すしかない。
自分の中でのスイッチを完全に入れ替え、バーボンとしての空気を纏った。
最初からこうしておけば良かった。
彼女の目付きに怯えが戻った瞬間、そう思ってしまった。
「・・・バーボン。このコードネーム、聞き覚えありませんか」
あの時と同じ言葉。
彼女がミステリートレイン内で聞いていれば、こう尋ねた瞬間、答えは出るはずだ。
そしてそれは、Yesという答えで彼女の目が教えてくれた。
「聞き覚えが、あるようですね」
沖矢昴は、彼女が嘘をつけないことを知らないのだろうか。
知っていれば、こうなることもなかったか。
心の中で、あの男をどこか嘲笑いつつも、自分の器の小ささに嫌気もさしてしまった。