第116章 安室2※
真っ直ぐ見つめる視線から、彼女も目を離さなかった。
・・・恐らく、僕が離せないようにしていたのだが。
「す、スマホの調子が悪く・・・なって・・・」
そう言った瞬間、自然と彼女の視線は僕から逸らされた。
ああ・・・本当に。
どうして彼女はこうも、嘘をつくのが下手なのだろうか。
「・・・心配かけて、すみませんでした・・・」
怒り?
いや、違う。
苛立ちだ。
「・・・っ」
本当のことを話してもらえない自分の存在に、苛立っているんだ。
僕が・・・完璧な安室透であれば。
彼女にこんな嘘をつかせることもなかった。
彼女をここまで怖がらせることもなかった。
・・・今まで通り傍で守ることができた。
それができなくなった自分の苛立ちを誤魔化すように、彼女を強く強く抱き締めた。
「・・・本当に、心配したんですよ・・・」
嘘ではない。
ただただ、心配していた。
彼女が傍に居てくれなくなる恐怖も勿論あるが、それは自業自得だ。
それに、覚悟もしていた。
「・・・透、さん・・・?」
・・・自制がきかない。
力の加減もできない。
震えないようにするのが精一杯の中、彼女の手が、僕の背中にゆっくりと這わされて。
その瞬間、何かが自分の中でプツリと切れた気がした。
「この一週間、僕がどんな気持ちで過ごしたか分かりますか」
・・・こんな苛立ちを、彼女に吐いたって仕方が無いのに。
悪いのは僕なのに。
それでも、言葉は僕の口から意志と関係無く溢れ出てきた。
「本当に・・・すみませんでした」
・・・謝って欲しいわけでもない。
彼女に何かを望むのは間違っている。
分かっているが、冷静さがこれ以上失われないように。
小さく息を吸い込み、ゆっくり吐いて。
「・・・今、本当はどちらにいるんですか」
改めて、彼女にそう質問を繰り返した。