第116章 安室2※
背後にあった扉が、僅かに音を立てて開かれた。
慌ててそちらに銃口を向け直すと、僅かに人影が見えた気がして。
「ベルモットか?悪いが彼女は僕が連れて・・・」
彼女に聞かれても問題ない会話はしていた。
そこにいるとは思わなかったが。
気を抜かず、トリガーにかける指に意識を持っていっていると、ふと扉の向こうから何かが投げられて。
重厚的な金属音の後、何かが転がる音に自然と視線はその方向へと向けられた。
けれどその正体を知った瞬間、流石に動揺を隠しきれなかった。
「・・・手榴弾!?だ、誰だ!誰だお前!」
ベルモットではない。
彼女なら姿を隠す必要がない。
扉の向こうにいる相手の正体を知ることもそうだが、手榴弾をどうにかする手立てがない。
「・・・ッ!!」
何も手が打てないまま、手榴弾は大きな爆発音を立てて破裂した。
「くそ・・・っ」
そのせいで、連結を外すハズではなかった貨物車が、車両と離されてしまって。
身を乗り出し、貨物車の行方を見るけれど。
・・・もう、既に何もかもが遅かった。
先導する物が無くなった貨物車は徐々にスピードを落とし、橋の上で止まると、積んでいた爆弾ごと車体は弾き飛んだ。
「・・・ッ」
救えなかった。
僕の・・・目の前にいたのに。
握る拳の力が、抜けきらない。
けれど、今はそんな自分への怒りを抑えるしかなくて。
銃を構え直すと、手榴弾が飛んできた先の扉を勢いよく蹴り開けた。
「誰だ!」
ベルモットの手下。
その時はそう・・・思っていたが。
「!?」
暗闇の中、一瞬見えた人影は、こちらを見て薄ら笑みを向けたようだった。
その顔は、忘れたくても忘れられない顔。
「赤井・・・秀一・・・ッ」
つい先程、死を確信した男だった。
彼はすぐに窓から姿を消してしまったが、追い掛ける思考が残っていなかった。
何故、ここに。
何故、生きて。
何故、シェリーを。
疑問ばかりが出てくるが・・・その時自分の中に沸いた感情は。
まだ、僕の手であの男を始末できる機会があるかもしれない。
そんな、感情だった。