第116章 安室2※
その瞬間、彼女の顎に手を添えると、そのまま唇を触れ合わせた。
「・・・っん・・・!」
不意にしたせいか、彼女の口元の抵抗は無く、容易に舌が彼女の中へと入っていった。
そもそも、そんな気すら無かったかのように、彼女のそれはされるがままだった。
沖矢昴への見せつけ、というのは間違いがない。
どこか苛立ちそのままに、してしまったことも否めない。
「ん、ぅ・・・っ、とお・・・っん!」
時々、名前を呼ぼうとする彼女だったが、その隙間もすぐに塞ぎ込んで飲み込ませた。
・・・今、こんな状況で呼ばれれば、理性が完全に吹き飛んでしまいそうだったから。
「・・・っ・・・はぁ・・・!」
キスをする隙だらけの時間、沖矢昴は何も仕掛けてこなかった。
彼女をようやく解き放った瞬間、一気に空気を取り込む姿に、愛おしさと欲望が湧き上がった。
「ごちそうさまです」
あくまでも笑顔で余裕を見せたけれど。
内心、気が気ではなかった。
それを悟られまいと、彼女にちょっとした挑発的な仕草をすれば、動揺した様子で視線を逸らした。
「あの・・・、お別れの挨拶が済んだようならよろしいでしょうか」
「ええ、すみません」
沖矢昴に視線を向け、挑発的な声色で形だけの謝罪の言葉を告げた。
「では、ひなたさん。良い旅を」
・・・後ろ髪を引かれるどころではない。
本当はこのまま傍にいておきたいのに。
そうできると思ったのに。
ここはあまりにも密室過ぎる。
「・・・あの男にはあまり近付かないように」
ここには毛利探偵も、小さな名探偵もいる。
頼りになる人物は他にもいるんだ、と自分に言い聞かせるようにして。
彼女の横を過ぎ去る瞬間、小さく彼女にだけ聞こえる声で、そう囁いた。