第116章 安室2※
「おや、別々で来ていたんですか?それなら貴女の部屋は、恐らく僕の隣の部屋だと思いますよ。貴女に似た人が出るのを見たので、まさかとは思っていたんですが」
・・・長々と、よく喋る男だ。
彼女を連れ出すのには、それなりの理由があるのだろうが・・・この男の素性を知れない今、その理由の憶測すらできない。
「・・・そう言って、彼女を部屋に連れ込もうという魂胆か」
「とんでもない、人の物に手を出す趣味はありませんよ」
その上、彼女を物扱いか。
やはりこの男、いけ好かない。
けれどここで笑顔を崩してはいけない。
それだけは、安室透としてはやってはいけないことだ。
あくまでも、会話は笑顔で。
けれど脳内は焼けついてしまいそうな程、怒りで熱くなっていた。
「・・・!」
そんな時、突然胸ポケットにしまっていたスマホが、バイブ音を響かせて。
それがベルモットによるものだということは、すぐに分かった。
致し方なく、沖矢昴から目を離さないままスマホを取り出すと、数秒スマホへと視線を移した。
・・・そろそろ、こちらも動き始めなければならないようだ。
メールの文面を確認し、小さくため息を吐くとスマホを胸ポケットにしまい直して。
「・・・不本意ではありますが、彼女の部屋を知っているようなら案内をお願いします」
急遽、ベルモットとコンタクトを取ることになってしまった。
このまま彼女についていれば、ベルモットに見つかる可能性がある。
「ええ、分かりました」
この男と部屋は同じ・・・もしくは、言葉通り2部屋取っているのかもしれないが、いないよりはマシだろう。
彼女とベルモットを、1対1で合わせる訳にはいかない。
不本意過ぎることではあるが・・・と、彼女に向き合うと、耳元にそっと顔を近付けた。
「・・・似合ってますよ、そのワンピース」
あの男といても、少しは僕のことを考えてくれるように。
囁くように、僕を擦り込むように。
視線だけを僕に向ける彼女に、こちらも視線を絡ませた。