第115章 番外1※
湯船に浸かり、暫くしてから彼は浴室に姿を見せた。
相変わらず引き締まった体に目を向けられないでいると、彼も一通り全身を洗い終え、私の背後に座るように湯船へと体を沈めた。
「・・・っ」
浸かっている間、なるべく体が見えないように入浴剤は入れたけれど。
後ろに彼がいるという事実だけで、こんなにも心臓が反応してしまうものなのだろうか。
彼が後ろにいるのは緊張感が高まるが、逆に今はそうしてくれていて助かった。
もし目の前に彼がいたら。
この酷く情けなく赤くなっているであろう顔を、晒すことになっていただろうから。
「ひなた、少し焼けたか?」
「?」
湯船の中で膝を抱え何も言えないままでいると、彼は徐ろにそんなことを言ってきて。
「そうかも・・・?」
言われてみれば、そんな気もする。
お湯の中に沈めていた腕を上げ肌を確認してみれば、尚更そう感じた。
日焼け止めはしっかり塗っていたが、半袖だったのは良くなかったか。
そんな遅過ぎる反省をしながら、小さくため息を吐いた瞬間だった。
「ひあ・・・っ!?」
突然首筋にゾクッとした感覚を覚え、丸めていた背中を伸ばしながら驚き、間の抜けた声を浴室内に響かせた。
「すまない、つい」
「つ、ついって・・・んぅ・・・!」
感覚のあった場所を手で抑えながら、何があったのかを混乱する脳内で整理した。
感覚からして、彼が口付けたのだとは理解したけど。
ただ、不意打ちは良くない、と直接顔を見て文句を言おうとしたのに。
今度はその唇を、私の唇に重ねられて。
すぐにそれは離されたものの、言おうとしていた文句は綺麗に飲み込まされた。
「・・・仕事について、僕も詳しく聞いておくべきだったな」
「?」
髪をかき上げるように額に手を置いたまま、彼はため息混じりにそう言って。
何故、と小首を傾げながら彼を見つめると、零は困ったような笑みを小さく零した。