第115章 番外1※
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「ひなた」
その感覚は、瞬きをしたに過ぎない感覚だったのに。
「・・・・・・」
次に瞼が開いた時、目の前に男性の姿は無く、見えたのは零の姿と。
「起きられるか?」
見覚えのある部屋。
「・・・あれ、ここ・・・」
その部屋のベッドの上だということに気が付くと、ゆっくりと体を起こした。
「事務所だ。海の家で力尽きた様だから、僕が連れ帰ったんだ」
・・・力尽きた、か。
眠ってしまう瞬間の記憶は曖昧ではあるが、それまでの感覚や会話は、まだ何となく残っている。
それを辿れば確かに彼の言い方は間違ってはいないのだけど。
「そっ、か・・・」
男性の件は何も言わない事に対し、彼はそれを覆い隠してしまうことを察し、それ以上は聞かず口を噤んだ。
・・・あの後どうなったのだろう。
気にはなるが、聞いた所で私はどうする事もできない。
それに、声を掛けてくれた梓さんにも悪いから。
「迷惑掛けちゃった・・・」
どこまでの人が関与していたかどうかは分からないけど。
私があの場に行ってしまったせいで、そうなったのではないかと。
そう、疑ってしまう。
「大丈夫、心配はしていたが、迷惑とは思っていないようだ」
・・・ああ、お店の人と話したんだ。
まあ、それはそうか。
勝手に私を連れ出せば、零が不審者だと思われてしまう。
「それと、人員が確保できたから明日以降は大丈夫だそうだ」
「え、そうなの・・・」
約束の期日までは、もう少しあったのに。
それが嘘だということは、すぐに気付いてしまった。
「・・・ひなた?」
きっと私が、不甲斐ないせいで。
お店に迷惑を掛けたせいで。
零に、心配を掛けたせいで。
「・・・挨拶もできないままだったな、って・・・」
「・・・・・・」
これ以上のことができなくなってしまった。
私が落ち込むのは見当違いなのに。
本音が、出てしまいそうになった。
・・・いや、態度に本音は出てしまったのだろうな。