第115章 番外1※
「・・・・・・」
待たせる間も、彼を忘れられないように置き土産までしていく。
本当に・・・ズルい男だと思う。
「知り合い?」
「!」
再び、ボーッと空を眺めては、どこか近くのカフェでも入っていようかと考えていた時。
昨日飲み物を渡してくれた男性が、仕事終わりなのか私の傍までやってきて。
「えっと・・・そんな感じです」
・・・見られただろうか。
でも尋ね方からして、最後の置き土産は見ていないようだ。
それさえ見られなければ、別に良いか。
「あ、そうだ。これ店長から」
そう言って彼は昨日のように飲み物を渡してくれて。
「いつもすみません。店長にお礼言ってきます」
「大丈夫大丈夫。お礼欲しくてやってる訳じゃないだろうし、今忙しそうだから」
毎回貰うばかりで申し訳がない。
ちゃんと帰りにお礼を言うことを肝に銘じつつ、風で揺られ顔に張り付いた髪を、そっと耳に掛けた。
「・・・じゃあ、後で伝えておきます」
「そうすると良いよ」
私の答えに、彼は笑顔をこちらに向けながら隣に腰掛けた。
あまり話した事がない気まずさを貰った飲み物を開けては胃に流し込み、それを紛らわせて。
「ひなたちゃん、この仕事は初めて?」
「はい、初めてしました」
そうなんだ、と笑う彼の笑顔は海が良く似合うような爽やかなもので。
「来年もする気はない?」
夏はこういう人がとてもモテるのだろうな、と横目で彼を見ながら、何度か飲み物を口に運んだ。
「いえ、普段は別の仕事を掛け持ちしてるので・・・」
「そうなんだ、残念」
呼んでもらえるのはありがたいが、私はポアロが好きだし零の助手としても働いていたい。
そう考えながら、あと少しで見納めになるであろう景色に目を向けていた。
それから小一時間、彼と他愛のない会話をしながら沈んでいく夕日を見ていると、段々と眠気が襲ってきて。
今日も疲れが溜まっているのだろうな、と零が来るまではと頬を軽くつねった。