第115章 番外1※
「・・・っ」
ボーッとしていてはダメだと、我に返って止まっていた片付けの手を再び動かし始めた時。
『東京からお越しの「よしだゆうと」様!おツレ様がお見えです。至急、海の家の前まで来てください!』
聞き慣れないアナウンスの声と、すぐそこから聞こえてくるそれに、再開した手の動きはまたすぐに止められてしまった。
「な、何だ・・・?」
けれど今度は私だけでなく、他の従業員やお客さん達も、手が止まるアナウンスの内容に辺りを見回しながら、互いに顔を合わせていた。
そんな時、自然と零に向いた視線は、彼の視線と偶然バチッと合ってしまって。
別に悪いことをしている訳ではないのに。
少し後ろめたく感じるのは何故なのか。
そんな事を思いながら、合ってしまった視線を外せないでいると。
「・・・!」
彼は笑顔のまま徐ろに私へ向かって、人差し指を自身の口元に添え“静かに”のジェスチャーをしてみせた。
「・・・っ」
零に何かを言うつもりでは無かったが、喉の奥で言葉がつかえたまま、彼はどこかに姿を消してしまった。
暫くして、コナンくん達の姿も見えなくなると、その騒動が気になりつつも仕事に戻らざるを得なくて。
それから数十分が過ぎた頃だった。
「ひなた」
「わぁ・・・っ!?」
突然背後から呼ばれたせいで大きく体を震わせながら驚き、間の抜けた声まで出してしまって。
声で誰かは分かっていたが、振り向き姿を確認すれば、そこには笑顔で私の背後に立つ零がいた。
「ど、どうしたの?」
できれば零には、真正面から声を掛けてほしい。
本人に自覚はないのかもしれないが、彼はいつも気配を消しすぎているから。
姿を見せないまま声を掛けられると、さっきのように大袈裟に驚いてしまう。
「今日は僕の車で家まで帰ろう。それまでここで待っていてくれ」
「わ、分かった・・・」
まだ心臓がバクバクと脈打つ中、彼は私の体を心配してか、そう言ってくれて。
今日は普通に帰れそうだが、と思いつつも、彼が言い出したことは絶対に曲げられない。
早々に頷いて了承すると、彼は満足したように笑みを深め、それ以上は何も言わず再びどこかへと行ってしまった。