第115章 番外1※
「・・・さん」
・・・・・・。
「お客さ・・・」
あれ、声が聞こえるのに。
「お客さん!」
体が・・・動かない。
「お客さん、大丈夫ですか?」
何とか瞼は上がったけれど。
いつの間にかタクシーの車内で眠ってしまっていた体は起きることなく、口だけが動かせる状態だった。
「・・・すみま、せ・・・」
早くここから退かなければ。
迷惑になってしまう。
けれど体は言うことを聞いてくれず、どうしたら良いか自分でも分からなくなっている時だった。
「どうかされましたか?」
「あ、いえ・・・お客さんの体調が悪くなってしまったみたいで・・・」
どこからかやって来た人と、タクシーの運転手さんが会話を始めた。
相手の・・・この声、は。
「・・・ひなた?」
零だ。
視界はぼんやりとしているけれど、間違いない。
けど、上手く声も出せなくなって。
どうしようもなくなっていると、零は私の体を抱き抱え、タクシーから降ろした。
その後も、運転手さんと何か話をしているようだったけれど。
意識が途切れ途切れになっているせいで、記憶にはあまり残らなかった。
「大丈夫か、ひなた」
気付けば、ベッドの上。
それも、タクシーから降りて数時間後のことだった。
「・・・零?」
運ばれた記憶は薄らあるけれど、まだ頭がボーッとするせいでハッキリとしない。
それでも体は動くことを確認すると、零が差し出したコップに入った水を受け取り、口にした。
「特に異常は見られないが・・・念の為、病院に行くか?」
「・・・ううん、大丈夫。多分ちょっと疲れてただけ」
慣れない仕事と、外でということもあってか、自分では気づかない疲れを感じていたのだろうと、笑顔で返事をしてみるけれど。
彼はあまり、納得していない様子だった。
「それと・・・これは、ひなたのか?」
「うん。店長さんからの差し入れ」
そういえば、と彼はサイドテーブルに置いていたペットボトルを手にすると、私にそれを見せて。
普段私が口にしないような物だったから、気になったのだろうか。
こういう時でも、公安としての違和感を敏感に感じ取るのだな、と心の中だけで笑いを零した。