第115章 番外1※
ーここからは番外編1です。ー
一応、アメリカへ行く前の話です。
「・・・海の家?」
「うん。潮干狩りする場所の。駄目かな・・・?」
暑さが増してきた季節。
海開きも間近となり、足りていない従業員をかき集め始める中。
その声は梓さんを介し、私の元にまで届くようになっていた。
食後のコーヒーを運びながら、ポアロで頼まれたその話を、事務所のソファーに座る零へと相談していて。
「駄目ではないが・・・梓さんも一緒か?」
テーブルにコーヒーを置きながら、表情を僅かに強ばらせてしまって。
彼相手に嘘がつけないことは、重々承知だから。
素直に事実を伝える他ない。
「・・・梓さんは、近くの別のお店を任されてて。代わりに、梓さんのお兄さんが付いてきてくれるって言ってたけど」
「ああ・・・杉人さんか」
零は、度が過ぎる程に心配性だ。
恐らく、私一人では行動をさせない。
それをそのまま梓さんに伝えると、彼女のお兄さんについて来てもらおうという話になって。
元々、お兄さんは梓さんが行く店へ、手伝いに行く予定だったらしい。
梓さんと一緒に仕事をすれば、ポアロの仕事に影響がでてしまう為、梓さんと交代する形で話は進んでしまった。
「ひなたが行きたいなら、良いんじゃないか?」
「え、いいの・・・?」
意外、だった。
彼が二つ返事でOKを出すなんて。
「駄目だと言うとでも?」
「ま、まあ・・・」
ポアロと彼の手伝いだから、働くことも許可されていると思っていた所もある。
それが短期間でも、別の場所でとなると難しいと考えていたから。
「梓さんと別の店ということは、ポアロも問題無いのだろう?」
拗ねている訳でもなく、ただ笑顔でそう話す。
逆にそれが怖くも思える。
「うん・・・マスターには相談したよ」
何だか拍子抜けだ。
それでも、許可が貰えたことには安堵した。
斯くして、私の夏はこれが幕開けとなった。
ーーー
「ひなたちゃん!これ運んで!」
「あ、はい・・・!」
海の家に来て数日。
ようやく仕事にも慣れてきた。
ポアロとはまた違った忙しさだったが、比較的楽しく働いていた。
・・・残念ながら、その日までは。