第114章 安室1※
「ひなたさんといる時は余裕なんてありませんよ。そう見せかけているだけです」
実際、本当に余裕なんてものはない。
いつだって、自分の気持ちと、やらねばならないことに追われていて。
大半は、自分の気持ちが邪魔をするのだけれど。
そんな僕の言葉を信じられないとでも言うように、彼女は小さなため息を吐きながら、コーヒーへと口を付けた。
「ひなたさん明日はポアロですよね、そろそろ寝る準備をしましょうか」
そう言いながら、飲み終えて空になったカップを持ってキッチンへと移動すると、彼女も急いで残っていたそれを飲み干し、僕の後に続いた。
今日、すべき事は。
彼女の2日後の予定を聞き出すこと。
・・・そして。
「ひなたさんはベッドをどうぞ、僕はソファーで寝ますので」
彼女を・・・ほぼ確実に心で繋ぎ止めておくこと。
「いえ・・・!前にベッド使ってしまったので今日は透さんが使ってください」
最善の策とは言えないだろうが、組織の言い訳にも使える。
万が一、僕のことがバレたとしても、傷を最小限にできる可能性がある。
「腰悪くしますよ?」
「それはこっちの台詞です」
彼女がベッドで寝ないことは、最初から検討がついていた。
「透さんがベッドで寝ないなら帰ります」
「随分と強く出ましたね」
遠慮深く、頑固な彼女だから。
「では、ひなたさんがキスしてくれたら、ベッドを使わせてもらいます」
これなら、どちらに転がっても大丈夫だ。
されれば、彼女を連れてベッドに行くけれど、恐らく彼女は根負けしてベッドで眠る。
でもそれは、僕のそうなってほしいという願望だったようで。
僕が提案をして、そう時間は掛からなかった。
僕の服を掴んだかと思うと、背伸びをして唇を触れ合わせた。
さっきは意地でもしなかったのに。
彼女が瞼を固く閉じてくれていて助かった。
こんな拍子抜けした表情見られていたら、たまったものでは無い。
・・・それよりも、問題なのは。
「んっ・・・!」
本当に彼女をベッドに連れて行く他無くなってしまったことで。
迷いが出てしまう前にと、彼女の後頭部に手を回すと、そのまま舌を絡みつけて深い口付けをした。