第114章 安室1※
「・・・できませんでした」
肩を落とす彼女の唇を指でなぞっていると、僕の膝から隣へと場所を移動しようとしたから。
腕で体を固定し、それを防いだ。
「ちょ・・・透さん・・・っ」
「してくれるまで、逃がしませんから」
・・・集中しろ。
僅かでも隙を見せれば、例え彼女でも勘づかれる。
今は安室透で、バーボンとして動きを見せる。
・・・降谷零の仕事として。
「・・・私はこのままで良いです」
やはり彼女は頑固だ。
こういう時は、素直になってくれればありがたいのだが。
でも、存外本当に言葉通りのことを思っているかもしれない。
「ほぉー、そうきましたか」
で、あればと、固定していた体を抱き抱えソファーに座り直させると、彼女は子猫のように目を真ん丸にして僕を見上げた。
「・・・え?」
僕もその横へ座り直す間、彼女は僕のことを目で追っていて。
どうやら言葉通りでも、そうでも無かったらしい。
そう思うようにした、というのが正しいだろうか。
「してくれるまでは触れ合わない、に変えましょうか」
彼女には意外と、意地悪が効くようだから。
コーヒーに口をつけては彼女にそう宣言をして。
「どうします?」
わざと意地悪く笑みを浮かべながら彼女に問えば、少し唇を尖らせながら、起こった表情を滲ませた。
「それでもしないです」
「そういえば、長所は頑固でしたね」
思わず漏れてしまった笑いをクスクスと零しては、やはりこういう時の彼女は分かりやすいと思ってしまった。
だからこそ、時々少し不安にもなるのだが。
「・・・透さんっていつも余裕そうですよね」
怒りを滲ませたままの声色で、彼女がそう言って。
余裕、という言葉に反応して彼女に視線を向けると、持っていたカップにもう一度口をつけ、コーヒーを一口胃に流し込んだ。