第114章 安室1※
「あ、ありがとうございます・・・っ」
「いえ、ひなたさんが無事で良かったです」
まだ怯えた様子の彼女は、僅かに震える声でお礼を言って。
小刻みに震える体を抑えるように握る手が、彼女に与えられた恐怖を表しているようだった。
「念の為、暫くポアロの仕事は昼間だけにしましょう。いいですね?」
「・・・・・・」
組織以外に危険が及ぶことは、なるべく避けておきたい。
その為、彼女にそう提案をしてみるけれど。
彼女は俯いたまま返事をせず、何かと葛藤している様子を見せた。
「・・・ひなたさん?」
「・・・今まで通りで大丈夫です。あのお客さんも、もう来ないと思いますし・・・」
返事を促せば、彼女はようやく返事をした。
けれどそれは僕の提案に背くもので。
「・・・・・・」
彼女にとってこれは、迷惑だと考えるのだろう。
どちらかというと、背く方がこちらとしては困ることではあるのだけれど。
でもそれは彼女が知ったことではない。
半分はこちらの都合だ。
ただ、彼女が自分に負った心の傷というものを深くしようとする行為へ、僅かに眉間の皺を寄せた。
少し手荒な方法にはなるが、それを身をもって解らせた方が良い。
そう判断すると、彼女の前へとゆっくり足を進めた。
数歩先の彼女の目の前で立ち止まると、落としていた視線をこちらに向けてジッと見つめた。
それを合図にするように、先程男に掴まれた手をもう一度掴んでみせた瞬間。
彼女の顔は真っ青になり、小刻みだった震えは大きく、呼吸も荒々しいものになっていった。
「こんな状態で、正常に家まで帰れるとは到底思えませんが」
「大丈夫です、から・・・離してください・・・っ」
・・・大丈夫なものか。
実際、こうしてしっかりとトラウマになっているじゃないか。
僕の手を離そうとする手の力なんて、弱弱しくて。
どうにかするのが容易すぎて。
「それはできません。またあの男がこうしてきたら、どうするつもりですか」
脅すつもりはない。
けれど、心配という感情は怒りに似た感情で出てきてしまう。
そのせいか、彼女の手首を掴む力も僅かに強まってしまって。