第114章 安室1※
「・・・っ、離して・・・!」
「それでは離してくれないと思いますよ」
傍から見れば、あの男より僕の方が余程悪く見える。
けれど、何が危険なのか分かっていない彼女に何と言えば良いのか分からなくて。
何をすれば良いのかも、どう提案すれば良いのかも。
「やめて・・・っ、透さん・・・!」
・・・分からない。
「・・・お願いです。これ以上、心配をかけないでください」
身勝手な願いかもしれないが、ただ彼女には普通に生きてほしくて。
組織の手も、あんな男の手も届かない場所で。
穏やかに、生きていてほしいだけだ。
・・・その為にできることなら僕は。
「・・・とおるさ・・・」
「梓さんには相談済みです。だから・・・」
何だってするつもりだ。
「・・・・・・」
直接そんなことを口に出来るわけもなく。
真っ直ぐ、彼女の目を見てそう訴えた。
「・・・分かり・・・ました」
その視線に耐えられなくなったのか、彼女は渋々といった様子だったが、こちらの提案を飲んだ。
・・・あの男に彼女は守れない、なんて言ったけれど。
自分が堂々と言えた立場ではないな、と小さく息を吐いた。
「仕事に限らず、暫くは夜に出歩かないでください」
「・・・はい」
僕の言葉に、ひなたさんはただ頷くだけで。
掴む彼女の手は未だ震え、呼吸も整っていない。
とりあえずその手を自由にすると、彼女は感覚を確かめるように、その手首に指を添わせた。
「今日はとりあえず僕が家まで送ります。車は離れた場所に置いてきているので、徒歩でも大丈夫ですか?」
「はい・・・すみません」
このまま車で送っても構わないが、彼女の様子をもう少し確認しておきたかった為、そう誘導した。
それに・・・今は。
ポケットに入っている彼女のスマホへ、追跡アプリを入れる時間も欲しかった。