第114章 安室1※
「貴方はいつもポアロを覗いているお客さんですよね。何故いつも店内に入らないのか気になっていたんですが・・・ひなたさんのストーカーだったんですね」
よく白々しく言えるものだと、自分でも思う。
その怒りは大半がこの男に向いているものではあったが、どこか彼女に向いている所もあって。
それは男が握っているひなたさんのスマホのせいだろう。
恐らく、スマホを取り出そうとして落ちたものを男が拾ったのだろうが、問題は何故彼女がそれを落とすことになったのか、だ。
誰かに助けを求めようとスマホを取り出し、誰かに連絡をしようとした。
・・・でも、それは。
誰に、なのか。
チラつくのは、あの男の顔で。
「人聞きの悪いこと言うな!僕はひなたちゃんを守る為に・・・!」
そんな彼女への身勝手な怒りは、なんとか抑えたが。
抑えた怒りの矛先は、この男へと全て向けられた。
・・・気安く名前で呼ぶな。
軽々しく、お前のような奴が守ると言うな。
「残念ですが、貴方ではひなたさんを守れませんよ」
彼女を左腕で抱えるように抱き寄せると、男の腕を掴む手の力をグッと強めた。
それは後で思うと、必要以上の力だった様にも思う。
「いっ・・・てて!」
男の手が彼女から離れたのを確認すると素早く後ろへ下がり、男から距離を取った。
「くそ・・・!」
即座に男はナイフを取り出し、それをこちらに真っ直ぐ向けた。
どこまで罪を重ねるつもりだろうかと心の中でため息を吐きながら、彼女を体で庇うように後ろへと追いやった。
「下がって」
こちらも冷静さは欠いているが。
目の前の男よりはきっとマシだ。
そう思いながら、ナイフを振り回しこちらに近づいてくる男を静かに見据えた。
相手を威嚇するには十分な動きかもしれないが。
攻撃としては、隙が多過ぎる。
男の手が上から下へと振り下ろされる瞬間、その手を下から突き上げるように手の平で弾くと、反動で男の手からナイフが落ちて。
それを確認すると、すかさず反対の手で男のみぞおちへと拳をねじ込んだ。