第114章 安室1※
幸い、ここから走れば数分で着く。
今はとにかく彼女の動向を探るべく、急いで部下から聞いた場所へと走り出した。
「・・・っ」
走る間、無意識に願っていたのは、あの男・・・沖矢昴が居ないことだった。
僕が彼女に向けている好意は、嘘ではない。
・・・利用し、それを嘘としてしまってはいるが。
けれど彼女が僕に向ける好意が・・・もし嘘だとしたら。
経験上、そんな事はないと確信はしていたが、確証が無いのもまた事実で。
彼女の前ではそんな判断も鈍る自分は、公安失格だ。
「・・・!」
数分後、部下の言葉通りの先に彼女の後ろ姿があった。
正しくは、彼女の姿も、だが。
「す、すみません・・・私・・・人を覚えるの苦手で・・・」
「そんな・・・あんなにポアロで会ったのに・・・?」
彼女の目の前には、フードを目深に被ったとある男が詰め寄るように立っていて。
・・・この男、沖矢昴ではないが見覚えがある。
最近、ポアロの外まで来るのに中には入らない。
時々入ったかと思うと、ひなたさんばかりを目で追う。
最初は組織の下の人間が探りに来ていたのかと思っていたが、どうやらそうではないようで。
梓さんは気付いていたようだが、彼女は今の今まで気付かなかったようだ。
「君がちゃんと帰れるか心配だったんだ・・・暗いし・・・一緒に家まで帰ろうよ・・・?」
「そっ、それは・・・」
部下に声を掛けさせてはいたが・・・強行手段に出たか。
そう、思うより先に。
「ねえ、早く行こうよ・・・!」
「・・・っ!!」
正直な所、体の方が先に動いていて。
「その手を離していただけますか」
気付けばひなたさんの腕を手首を掴む男の腕を、彼女の背後側から握っていた。
行動的には部下を向かわせる方が賢明だったと思うが、咄嗟に湧いた怒りが、勝手に僕を動かしてしまった。
「だ、誰だよ・・・邪魔するな!」
・・・抑えろ。
あくまでも冷静にいけ。
「これは失礼。でも貴方、僕のこと知ってますよね?」
怒りを笑顔でかき消すように見せたけれど。
腕を掴むこの手の力は、どうにも抜けなかった。