第114章 安室1※
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それから数日が経って。
その間、なるべく出会わないようにしていたのは、彼女も察しているだろうか。
それでも毎日家を出る際は、彼女はきちんと僕にメールを送信していて。
疑っていた訳ではないが、メールの内容も部下からの報告と相違ない。
その他に誰かにメールを送った様子も、あの男に会うことも、工藤氏の家に行くこともなかった。
『これから家に帰ります』
ミステリートレインに乗る2日前。
いつものように、彼女からそうメールがあった。
結局、2日後の彼女の予定はまだ探れずじまいで。
それ所か、ひなたさんと会っていたあの男・・・沖矢昴という男のことも。
名前と、東都大学大学院工学部の大学院生という情報しか掴めていない。
いくら探っても、それ以上何も出てこない。
「・・・何者なんだ」
唯一掴めている情報、男の学生証だという写真をスマホに表示させながら、それを睨むように見つめた。
・・・もう少し、近付くしかないか。
彼女のこともある。
今はそうする方が確実だろう、と考えていた時だった。
「・・・どうした」
見つめていたスマホに、着信の画面が表示されて。
ひなたさんの尾行をしている部下からだと確認すると、即座に応答ボタンを押した。
『対象、突然進路を変更しました』
部下の押し殺した声で、そう聞いた瞬間。
過ぎったのは、あの男の顔だった。
彼女が嘘をついて、あの男に会いに行く。
瞬時にそう思ったのは、何故なのか。
「今どこに居る?」
嫉妬か、疑いか、心配か。
考えた所で、正解なんて出ないが。
『ーー方面です』
でも今の僕は。
「・・・すぐ向かう」
答えのない考え以外、する事ができなくなっている。