第114章 安室1※
間に合わないと分かっていたが、彼女を追いかける為カウンターから出ようとした瞬間。
「安室さん!ナポリタン1つお願いします!」
「あ、はい・・・」
タイミング悪く、注文が入って。
「ひなたさん!」
呼び止める為に名前を呼んだけれど、彼女は振り返ることもなく、ポアロを後にした。
「・・・っ」
仕方がない。
今は尾行する人間に任せる他ないと、外にいる部下へとアイコンタクトを送ると、相手からも返事の頷きがあった。
「・・・・・・」
逃げるように去ったということは、彼女にとって探られたくない話をされたからか。
それとも、別の感情に追いやられてのことか。
例えば・・・罪悪感、とか。
多めにカウンターへ置かれた代金に視線を向けながら、別の嫌な予想まで浮かんできた。
・・・もしくは。
あの男に脅されているか、協力して僕を探っているか。
現時点で決め付けることはできない。
けれど、可能性としては考えておかなければ、ならない。
とりあえず今は目の前の仕事をしなければと、頼まれた料理を作り上げた。
その十数分後。
彼女が帰ったであろう時間に、一通のメールを送った。
『家には着きましたか?行動は事前報告をお願いします』
本当は、部下から連絡を受けて帰ったことは分かっているのに。
よくもここまで白々しく送れるものだと、褒めでも呆れでもない感情を浮かべた。
『すみません、家には今着きました。以後、気をつけます』
突き放すような文面に、こちらの文面がそう見えるようなものだったかと、ふと考えてしまった。
・・・彼女に嫌われると都合は悪くなるが、問題はない。
極力、そういう場面になることは避けたいが。
「・・・・・・」
問題ない、はずだ。
ないはずなのに。
何故こうも、胸がざわつく?