第114章 安室1※
「どうぞ」
「ありがとうございます」
ケーキと一緒にミルクティーを差し出すと、ひなたさんはゆっくりとそれに口をつけた。
客足は落ち着き始め、梓さんも離れた場所で作業をしている。
「そういえばひなたさん、来週末空いてます?」
予定を聞くなら今だ、と身を乗り出すように彼女へと尋ねた。
「来週末ですか?空いて・・・」
ひなたさんに、この街で友人と呼べる親しい人が居ないことは分かっている。
だから。
「す、すみません、来週末は友人との用事が入ってしまってて・・・」
数十分前の質問もそうだが、こういう断り方をするのは、怪しんでくれと言われているようだった。
「そうですか。ちょっと手伝ってもらいたい仕事があったのですが、残念です」
・・・やはり彼女の裏に、あの男がついているのだろうか。
多少察しが良いと仮定すれば、追跡アプリが削除されていたのにも説明がつく。
どういう入れ知恵をしているのかは知らないが、何が目的でひなたさんに近付いているのか。
・・・決まった訳ではないが、はっきりはさせておきたい。
「すみません・・・」
「そんなに謝らないでください。でも、外へ出るならきちんと連絡くださいね」
流石に、ミステリートレインに乗ることはないだろう。
ただでさえ、乗車チケットの代わりであるパスリングは一般で手に入りにくい。
あの男が一般人・・・なら。
「・・・分かりました」
また後ろ向きな表情をする。
それが、今嘘をつきましたと言っているようなものだと彼女が気付くのは、いつだろうか。
こちらとしては分かりやすくてありがたいが、逆に不安にもなってくる。
「・・・すみません、混んできましたし帰ります」
「ひなたさん・・・?」
お皿をしまう為に彼女へ背中を向け作業をしている時だった。
突然そう言ったかと思うと、カウンターにお金を置いて彼女はポアロを足早に後にしてしまった。