第2章 就職先
「いえ、怪我がなくて良かったです」
言いながら彼は右手に持っていた袋を差し出した。
「その小さなバッグにお昼ご飯が入っているとは思わなかったので。ポアロで僕が作ったものですけど良かったら」
ギリギリだったみたいですけどね、と笑う安室さんを見た後、袋に入っていた容器を開けると昔ながらのナポリタン。正直食欲はなかったのだが、見るとお腹が空いてきたような気がした。
「あとこれは自販機のもので申し訳ないですけど」
ポケットからコーヒーを取り出し、渡してくれた。まだしっかりと熱い。
「色々と本当にすみません・・・」
「ありがとう、の間違いですよ」
こんな優しさに触れたのはいつ以来だろう。そしてよく気が付く人だな、と。これも探偵だからだろうか。
「では僕はポアロへ戻りますので。また後ほど」
「はい、ありがとうございます」
安室さんが帰ったあと、早速ナポリタンを食べた。見た目同様懐かしい味だったが、どこか違う。深みがあるというかなんというか。とにかく美味しい。
「器用な人だな・・・」
ポツリと呟きながら淡々と口に運んだ。
食べ終わると早速作業に戻った。作業は段々と楽しくなってきたが、毎日この量の資料をまとめるのだろうか。それは彼がこれを読んだと示すのか、それともこれから読むと示すのか。どちらにせよすごい量なのだから考えただけで恐ろしい。
「ここに保存して・・・、できた・・・!」
時間を確認するとほぼ約束の時間。丁度よく仕事ができたことに自分では満足した。・・・あとは不備がなければ良いのだが。
まとめ終えた資料やパソコンなどを空いていた引き出しに戻し、最後に施錠したことを確認すると、足早にポアロへ向かった。
ポアロへ着きこっそりと窓越しに店内を除く。どうやら平日ということもあり、ティータイム時だがお客さんはいないようだ。カウンターを見ると安室さんが何やら作業をしているようだった。
なぜだろう。彼に会えることが嬉しいと、早く話がしたいと思っている。こんな感情はあまり感じたことがない。ドキドキとなる心臓を落ち着かせるようにキュッと胸元を掴みながら、ドアを開けた。
「こんにちは」
「お疲れ様です、如月さん」
どうぞ、とジェスチャーでカウンター席を指定される。腰掛けると自動的に出てくるミルクティー。