第114章 安室1※
「・・・・・・」
しかも彼女が行き着いた先は、あの工藤優作氏の家だったと報告を受けた。
・・・何故、彼女が工藤氏の家に。
「注文、いいですか?」
「はい。今、伺いますね」
梓さんが向かおうとした所を、ジェスチャーで止めて僕が注文を受けるために動いた。
止まれば、思考が纏まらなくなってしまうから。
余計なことまで、考えてしまうから。
「お兄ちゃん、仕事には慣れたみたいだな」
「ええ、おかげさまで」
常連のお客さんに声を掛けられれば、いつもの笑顔で返事をした。
ポアロでの仕事も手を抜いているつもりも、楽しくない訳でもない。
でもこれが本当の笑顔なのかは、今は分からない。
「安室さん!こっちも注文いいですか?」
「ええ、すぐ向かいます」
お昼時という事もあって、店内は少し賑わい始めていて。
店にも、僕にも。
これは都合が良かった。
頼まれたものを作り、お客さんと会話をする。
その動作が、要らない感情を排除してくれる。
2階に毛利探偵事務所がある為か、ここでは興味深い話もよく聞ける。
・・・彼女のことも、例外ではない。
そんなことを1人考えながら、ふと顔を上げた時だった。
「ひなたさん!」
「・・・っ、透さん・・・」
店の外に、彼女がいるのが見えて。
考えるより先に体が動き、思わず店のドアを開けて彼女を呼び止めてしまった。
「折角来たのに、食べて行かれないんですか?」
呼び止めた所でどうするか。
そんな事はあってはならないが、考えずに動いてしまった。
半ば取り繕うように尋ねると、彼女は戸惑った様子を見せて。
「あ・・・いえ、お忙しそうですし・・・。それにここに来た訳では・・・」
だろうな。
工藤氏の家から帰る途中だということは分かっていた。
そこに言ったことを隠すようなら、理由を探らなければならない。
そう、脳裏で考えた時だった。
「!」
彼女のお腹から、空腹を知らせる音が鳴って。
彼女が羞恥を感じるのは当然で、みるみる内に顔を真っ赤にさせた。