第114章 安室1※
「それと、1人調べてほしい男がいる」
「男・・・ですか」
そういえば、と先程会った男の詳細を風見に伝えた。
彼女とあの男が知り合いなのは、ほぼ間違いがないだろう。
ただ、どういう知り合いなのか。
今は名前も分からない状態ではあるが。
はっきりさせておいた方が良いだろう。
「・・・分かりました。尾行の中で見つけ次第、調べておきます」
「頼むよ」
僕が伝えた内容を彼は頭に叩き込むと、軽く頭を下げて姿を消した。
彼は僕の1つ年上ではあるが・・・大事な部下だ。
公に捜査できない僕の代わりに、色々と動いてくれている。
今週中には、あの男について何か分かるだろう。
この時は、そう思っていた。
ーーー
次の日。
ポアロでの仕事をしながら、ふと来週末のことを考えていた。
ベルツリー急行・・・来週末、僕はそこへバーボンとしての仕事をしに行く予定だった。
その間、ひなたさんに組織の目が向く可能性は低いと思えたが、万が一には備えておかなければならない。
・・・あんな事をした後だ。
ジンが何かに気付かない保証はない。
追跡アプリを入れたスマホは、使わないように言った。
もし外出をするとしても、彼女がそれを持ち歩く可能性は極めて低い。
やはり、公安の人間を増やして尾行を・・・。
いや、そうすれば組織が不審に思うタイミングを増やすことになる。
「・・・・・・」
そこまで考えを巡らせて、ふと考えてしまった。
これは単純に、彼女に好意を持っているからなのか、その上で守りたいと思う気持ちからきているのか。
それとも・・・彼女に僅かでも、不信感があってのことなのか。
そう思ってしまう理由の1つに、今日の外出を僕に連絡していないことがあった。
家を出る際には逐一メールをするように伝えてあるが、彼女は今朝、出掛けたにも関わらず僕に連絡を入れなかった。
尾行をしている公安の人間がいなければ・・・僕は彼女の外出を知ることはなかった。
彼女が僕に連絡を忘れている可能性はある。
寧ろ、そうであってほしいと願う自分がいた。