第112章 恋愛で※
「!」
彼の言葉を聞き、何度もそれを脳内で流していると。
自然と、私の中から別のものも流れ出てしまっていたようで。
一瞬それに彼も驚きはしたものの、すぐにさっきまでの表情に戻された。
「本当に泣き虫だな」
「・・・ほんとにね」
笑みと同時に、涙も零れた。
嬉し涙は、久しぶりのような気がする。
そんな流れ出てしまった涙を、優しく彼の手が拭き取って。
いつもの冷たい手が少し触れた瞬間、安心感と幸福感は今まで以上のものになった。
「・・・ひなた」
改まった様子で彼は私の名前を呼ぶと、膝をつき、ポケットから小さな箱を取り出した。
その箱は、以前私が見たものとは違うもので。
思わず目を見開いてしまった。
「僕と・・・結婚してくれませんか」
そんな私に、彼はその箱を開けてみせて。
収められていた指輪を露わにさせた。
少し見覚えのあるようなデザインに、見開いていた目は更に見開かれてしまった。
「これ・・・」
箱に入った指輪と、自身の薬指についた指輪を、改めて見比べて。
やはりそうだと確信すれば、彼の顔に視線を向けた。
「思っていたより、早く渡すことができた」
そう言いながら、彼は箱からその指輪を取り出し、私の左手の指先を掴むように優しく手に取って。
ゆっくりとその手の薬指にはめ込んでいけば、指輪はピタリと連なった。
やはりこれは・・・セットリングだ。
ということは彼の言葉から察するに、このもう一つを、元々渡すつもりでいたということなのか。
「いつかは本当に、書面上でも婚姻関係を持ちたいと思ってはいたんだ。でもそれがいつになるかは分からないから、そうしようとは言えなかった」
そう言って立ち上がった彼の目は、いつも以上に真っ直ぐとした信念を持つ、綺麗な瞳をしていて。
輝きを増した左手の薬指は、指輪1つ分よりも随分と重たく感じた。