第112章 恋愛で※
「結婚、しないか」
私が立ち上がり、見つめ合って数秒後。
彼は変わらぬ様子で、お茶にでも誘うように、そう言った。
以前も、ここで彼に同じことを言われた。
改めてのそれに、首を傾げて疑問を示した。
「・・・してるよ?」
私としては、事実と付くものではあるが、とっくに婚姻関係は持っているものだったから。
「・・・・・・」
「え・・・」
何を言われたのか、すぐには察することができなかったが。
彼の何かを含んだような笑顔と、どこか自信を持ったような表情で見つめられ、段々と何の事なのか察してきて。
思わず、間の抜けた声を出してしまった。
「理解、したか?」
した。
理解はしたけれど。
「で、でも・・・っ」
それは不可能だと、彼が言ったのに。
私もそういうものだと、思っていたのに。
今更それが覆るとは思いもせず、動揺が隠しきれなかった。
「思ったんだ」
一人慌てる私の手を取り、優しく握られると、動揺は静かに収まっていって。
少し伏せているけれど、彼の決意を固めたような眼差しがチラリと見えた瞬間、心臓が高鳴った。
「僕からひなたを奪い取れるものなら・・・」
更にその視線が私として交わり。
「奪ってみろ、と」
覚悟を決めた彼の目が見えた瞬間。
何か熱いものが、私の中で湧き上がった。
「・・・・・・」
彼の今までの色んな経験が彼を強くし、彼を作り上げていったのだろう。
その強さを、一時私は脆くさせてしまったのだと嘆いていた。
それは今でも時々思うことではあるけれど。
彼はその弱みにもなり得るものを、強みに変えてしまう力がある。
きっとそんな所に惹かれ、傍に居たいと願ったのだと思う。