第112章 恋愛で※

「･･･零」

名前を呼んで、口を開けてと言ったりつもりだった。
彼もそれは分かっていたのだろうけど。

「どうした？」

酷く楽しそうにしている彼の口元は、白々しく尋ねてくる。

悔しいが、どうやっても私が優位に立つことはできないのだと思い知らされているようだった。

「く、口･･･」
「口が？」

･･･何が何でも、全てを言わせたいのだな、と彼には見られない表情で拗ねを表すと、小さく息を吐いて。

「開けて･･･ほし、い･･･」

か細いけれど、静かなこの部屋では十二分に聞こえる声で。

彼の促す通りに欲望を零せば、目を見ずとも満足というのが表れた口元が、私の目に映って。

「ひなたの頼みなら、いくらでも」

そこから、今度は彼の口が開く光景が映るのだと思っていたのに。

けれど私の予想とは反し、何故か次の瞬間で私の瞳に映ったのは、彼の間近な顔だった。

「ん、んぅ･･･ッ！」

気付いた時にはもう、私の唇は彼の唇と触れ合っていて。

何が何だか分からないまま目を見開いていると、隙間から滑り込まされた彼の舌が、ヌルッと私の舌を絡めとった。

「っ、ンん･･･く、ん･･･っ！！」

･･･後頭部に、いつの間にか彼の手が添えられ、逃げられないように固定されている。

私からキスをするはずだったのに、どうやら彼がそれを強制的なものにしたらしく。

そのせいで体勢が崩れ、彼の目を覆っていた私の手が外れたようだった。

その状況を飲み込んだのも束の間。

隙間のないキスに、思考も理性も溶かされつつある中、彼の片手が私の腰に優しく触れたかと思うと。

「ンんんッ、んぅ･･･ッ！！！」

ズプッと彼のモノが、ゆっくりと私のナカへと入ってきて。

私の意志とは関係なく自分の腰が降りていることに、理性はこうして無くしていくのか、とキツく思い知った。